戒名はいらないって本当?読めば変わる戒名の見方

「自分が死んだら戒名はいらない」

このように家族に宣言された方いませんか?

ネットや雑誌には「戒名はお寺の金儲け!」「本来の仏教ではなかった!」などと喧伝されているので、そのように思うのも無理からぬことかもしれません。

しかし、戒名を授かるということには、自分一人で完結する話ではなく、先人たちの想いを汲むことに繋がるものなのです。

この記事では、戒名の構成、歴史、信仰を通して、戒名を授かる意味を明らかにします。

最後まで読んで頂ければ、戒名に対する見方がきっと変わるはずです。

インド仏教直系という意識

日本仏教では、“三国伝来(さんごくでんらい)”という言葉が昔から言われてきました。

これは仏教がインドから中国を通って日本に伝来したことを指す言葉で、日本仏教の「自分たちはインド仏教の直系なんだ!」という意識を表します。

戒名を構成する要素にも、インド・中国・日本の文化がそれぞれ入っているのは、その意識の表れとも言えます。

戒名の構成

戒名は四つの要素で構成されます。私の祖母の戒名【壽光院昭室良順大姉】を例に挙げると、以下の通りです。

  • 壽光院(院号)
  • 昭室(道号)
  • 良順(戒名)
  • 大姉(位階)

それぞれの部分について簡単に解説します。

院号(いんごう)

“院”とは、日本では譲位した天皇の住まい、また天皇自身を指しました。

平安時代以降は、自身の建立した寺院の名を院号として用いて、戒名に付すようになります。

同種のものとしては庵号や軒号というものがあり、院号が付されないケースも多々あります。

道号(どうごう)

中国起源で、僧侶の別号として用いたものです。

中国では古来より名前は姓+諱(いみな)で構成されますが、目上の人を諱で呼ぶことは失礼にあたるという考えがあり、字(あざな)という別称を用いました。

それが転じて、道号となります。

戒名(かいみょう)

戒名とは本来この部分だけを指しました。

インドにおいて出家の際に名を改める習慣に由来しています。

位階(いかい)

性別や信心の深浅によって付けられるものが異なります。

戒名の持つ効能

「夜に外を出歩くな」

これは子供のころ、警察官であった父から口酸っぱく言い聞かされたことです。

夜に外を出歩けば、事故など危ない目に遭う可能性がどうしても高まります。

だから、自分の身を護るために、予めそういう場所と距離を置くことが大切というわけです。

実は、これ戒名にも同じことが言えるのです。

戒の持つ力

仏教徒となるには、仏教のルールである“戒(かい)”を授かり、これを守って生きていくことが勧められます。

以下が基本となる五つの戒(ルール)です。

  • 生き物を殺さない
  • 自分のものでないものを盗らない
  • 邪な性行為をしない
  • 真実でないことを語らない
  • お酒を飲まない

以上を守れば、善くないことから距離を置き、自らの身心を守ることができるのです。

このような事から、戒には善からぬものから身心を守る力が備わっていると仏教では考えます。

なお、日本仏教においては、仏教徒となるべく、戒を授かる際には同時に戒名を授かるのが通例となっています。

仏教史上初の戒名

仏教史上初めて名を改めた僧侶は、“サーリプッタ”尊者というお釈迦様の高弟で、般若心経では漢訳名の「舎利子(しゃりし)」で登場することで知られます。

元は別の宗教を信仰しており、本名はウパテッィサであったと伝わりますが、仏教改宗後にサーリプッタと呼ばれるようになりました。

ちなみに、サーリプッタとは「サーリー(という女性)の息子」という意味であり、今の戒名より、かなりフランクな印象です。

在家仏教徒にも戒名が広がる

戒名の習慣は出家した僧侶のみのものでしたが、次第に在家仏教徒にも浸透していきます。

その契機となったのは五世紀に登場した“菩薩戒(ぼさつかい)”です。

それまでは別々のルールで規定されていた出家者と在家仏教徒でしたが、菩薩戒という僧俗共通のルールによって、在家仏教徒たちに自分たちも出家者と同じ菩薩(修行者)であるという意識が芽生えます。

そして、六世紀の中国において、天台宗の開祖である智顗(ちぎ)が隋の煬帝(ようだい)に“総持”という戒名を与えたように、戒名が在家仏教徒にも広がっていきます。

病気や死後に戒名を授かるわけ

これまでの記述で分かるように、仏教徒になるのは生前の話であり、戒や戒名も生前に授かることを本義とします。

しかし、日本においては病人や臨終間際の人に対して、戒を授けることが行われるようになります。

そして、今日の日本仏教の多くの宗派では、生前に戒と戒名を授からなかった人は葬儀の際に授かることになっています。

なぜ、そのような習慣が根付いたかと言うと、一つは先述したように戒・戒名には善からぬものから身心を守る力があると考えられたからです。

そして、もう一つ、これは『大智度論』と呼ばれる仏教論書などに著わされていますが、戒には来世において善い境遇である天や人に再び生まれ変わる果報をもたらす効能があるという信仰されたためです。

さいごに

ここまで読んで頂ければ、戒名についての理解がグッと深まったと思います。最後に今回の再確認です。

今日において仏教徒が葬儀の際に戒名を付ける理由は主に以下の三点によります。

  • 三国伝来という意識を受け継いでいるから
  • 在家仏教徒も僧侶と同じ菩薩(修行者)であるから
  • 故人のご冥福に対する生者の祈りが込められているから

それぞれの国や時代の僧侶、在家仏教徒たちの想いが結集していることがお分かり頂けるかと思います。

善き仏縁と遇って、善き戒名を授かって下さい。

【参考】

『六朝時代における菩薩戒の受容過程(船山徹)』  

『何故、死後に戒名は必要なのか?(妙心寺派教学研究委員会)』