お彼岸とは?意味と意外な由来について僧侶が解説
お彼岸とは、春分、秋分を中日とし、前後三日ずつを合わせた各一週間をさします。
一般には、ご先祖様を供養する週間として知られていますが、それだけでなく、多分な要素が含まれたものでもあります。
この記事では、これまで仏教と関わりの薄かった方にも理解できるように、
- 彼岸という言葉の意味
- 彼岸会の由来
- お彼岸の特徴
それぞれについて、丁寧に解説します。是非、じっくりとご覧ください。
目次
彼岸という言葉の意味
お彼岸の“彼岸”とは、仏教用語で悟りの世界という意味です。
これに対して、私たちの生きる煩悩にまみれた世界を此岸(しがん)といいます。
仏教とは、修行を通して此岸から彼岸に渡ることを目的としているものとなります。
そのことを如実に表したのが、手習い歌で知られる『いろは歌』です。
色はにほへど 散りねるを (いろはにほへと ちりぬるを)
我が世たれぞ 常ならむ (わかよたれそ つねならむ)
有為の奥山 今日越えて (うゐのおくやま けふこえて)
浅き夢見じ 酔ひもせず (あさきゆめみし ゑひもせす)
【大意】
「諸行は無常であり、変わらないものなどどこにもない。原因と条件によって作られた煩悩にまみれた世界を乗り越えて、悟りの世界に至りたい。」
いろは歌
世の中に、移り変わらないものなどありません。誰もが老いていき、愛しい者との別れも経験します。
しかし、私たちは「いつまでも変わらないでほしい」と願い、執着します。この執着こそが、私たちに苦しみをもたらすのです。
そのようなものを乗り越えて、悟りに至ることを説くのが、『いろは歌』であり、それは仏道修行の流れを示します。
彼岸という言葉には、現状をよしとしない仏教の価値観が込められています。
彼岸会の由来
お彼岸の習慣の由来については、日本古来の太陽崇拝と仏教が習合したという説などがありますが、お彼岸にお勤めが行われた一番古い記録は、平安初期の806年に桓武天皇の発願により、国分寺の僧らが『金剛般若経』を読誦したものになります。
また、春分と秋分に行われた「日想観(にっそうかん)」という観想法との関わりも指摘されています。
早良親王の怨霊を鎮魂する
時の天皇であった桓武天皇には、早良親王という弟がおり、早良親王は次期天皇の立場にありました。
しかし、当時、平城京で絶大な勢力を誇った南都仏教を政治から切り離したかった桓武天皇は、南都仏教の代表格であった東大寺の中枢にいた早良親王と政策が一致せず、次第に二人の間にはすきま風が生じるようになります。
そんな中で起ったのが、平城京から長岡京への遷都を指揮した藤原種継の暗殺事件です。早良親王はこの一件に加わったと嫌疑をかけられ、乙訓寺に幽閉されてしまいます。
潔白を訴える早良親王は、抗議の意味を込めて絶食するも受け入れられず、淡路国への配流される途中に憤死します。それ以後、桓武天皇の身の回りでは不幸が相次ぎ、都である長岡京でも餓死や洪水などの天災が相次ぎ、巷では早良親王の怨霊による仕業と専らの噂でした。
そこで、行われたのが春分秋分を中心とする七日間に『金剛般若経』の読誦です。これ以後、公家や武士の間で彼岸の時期に追善供養を行うことが盛んになり、今日のお彼岸につながります。
日想観とは
日想観とは、浄土宗や浄土真宗において、所依の経典となる『浄土三部経』の一つ『観無量寿経』に記される観想法です。
シルクロードの中央アジアにおいて、盛んであったもので、太陽が西の空に沈んでいく様子を観察し、極楽浄土が西方にあることを想いうかべる修行となります。
日本の浄土教に絶大な影響を与えた善導によれば、春分と秋分の日は、太陽が真西に沈むので、西方浄土を観想する日想観に適した時といい、極楽浄土を願う人々によって盛んに行われ、広まっていきました。
鎌倉・室町期の公家や武士は、日想観の他にも、説法の聴聞や持戒などお彼岸の時期には、彼岸の原義の通り、仏道修行を実践していたことが史料に記されます。
お彼岸の特徴
ここまで記してきたように、お彼岸には、先祖供養と仏道修行の両面があります。
そのことをよく表したのが下記の俳句です。
けふ(今日)彼岸 菩提の種も 蒔日(まくひ)かな
馬場存義
この句は、江戸中期の俳人、馬場存義のもので、松尾芭蕉のお墓参りにおいて詠まれたものです。
菩提の種とは、「悟りに至るための糧」という意味であり、仏道修行を指しています。
お彼岸のお墓参りで詠まれたことからも分かるように、お彼岸には「故人を弔う」とともに、「仏道修行」するものという認識があったことが窺えます。
さいごに
この記事では、お彼岸について解説してきました。
最後に、もう一度おさらいをします。
- 彼岸の言葉の意味は、悟りの世界
- 彼岸会の由来は怨霊を鎮魂するため
- 日想観という仏道修行も関係している
ここまで読めば、かなりお彼岸について詳しくなったものと思います。この記事が善き仏縁となれば幸いです。
【参考】
- 『正法輪 第72巻』妙心寺派宗務本所
- 『岩波仏教辞典 第二版』
LINE公式アカウントです👇お友だち登録よろしくお願いします。
“お彼岸とは?意味と意外な由来について僧侶が解説” に対して1件のコメントがあります。
コメントは受け付けていません。